横幹連合ニュースレター
No.013, Apr. 2008
<<目次>>
■巻頭メッセージ■
柔軟な発想とコミュニケーション力
藤井 眞理子 横幹連合理事
東京大学
■活動紹介■
【参加レポート】
●第17回横幹技術フォーラム
■参加学会の横顔■
●日本情報経営学会
●日本生産管理学会
■イベント紹介■
●国際計算機統計学会
第4回世界大会・第6回アジア大会国際合同会議
●これまでのイベント開催記録
■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
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横幹連合ニュースレター
No.013 Apr 2008
◆活動紹介
●
【参加レポート】
第17回横幹技術フォーラム
「日本産業の国際競争力評価と企業経営の高度化
~産業・技術のイノベーションと国際競争~」(3月13日)
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第17回横幹技術フォーラム
テーマ:「日本産業の国際競争力評価と企業経営の高度化
~産業・技術のイノベーションと国際競争~」
日時:2008年3月13日
会場:TKP田町ビジネスセンター(東京・田町)
主催:横幹技術協議会、横幹連合
プログラム詳細のページはこちら
【参加レポート】
舩橋誠壽氏(株式会社日立製作所 システム開発研究所)
3月13日に行われた、第17回横幹技術フォーラムについて報告したい。今回は、「日本産業の国際競争力評価と企業経営の高度化 ~産業・技術のイノベーションと国際競争~」というテーマの下に、経営者、アナリスト、半導体産業研究者、金融工学研究者という立場の異なる方々が、それぞれの視点で講演された。
日立製作所の中村道治フェロー(元副社長)は、フォーラムのイントロダクションとしてフォーチュン誌500社ランキング中の世界電機企業の変遷を取り上げ、そのトップ15社に最も多くの日本の電機企業がランクインした記録は1990年の7社だったが、2007年には5社にまで減ってしまったことを最初に指摘された。
しかし中村氏は、この事実を悲観せずに「まだ5社もトップグループにいる」と考えた上で、「この産業の国際的な地位を高めるべきであり、サービスサイエンスというアプローチが経営意思を決定する場面で活用できるはずである」と、横幹技術への期待を示した。産業全体を見ると、激変する社会環境に対して経営判断の誤りや機会損失が多く報じられていることから「ビジネス・モデリングの手法を用いて、各企業の何を残して何を変革するかを、明らかにしてゆくべきである」と述べられた。
メリルリンチ日本証券の佐藤文昭氏(投資銀行部門副会長)は、バブル崩壊後の、特にこの10年間に、日本の大手電機企業の営業利益率は顕著に低下したにもかかわらず、経営がそれに対応できていないことを指摘された。そして、いま経営を改めなければ、グローバル資本は日本を通過してアジアに向かってしまうことを警告された。また、大型テレビと液晶については、適切な経営資源の配分を行えば、まだ利益率の低下をくい止めることができるのではないかとの認識を加えられた。
半導体生産技術者を経験され、現在は同志社大学技術・企業・国際競争力センターのCOE専任フェロー等を務める湯之上隆氏は、今後爆発的な半導体需要を起こすのは、明らかにBRICs[注1]であり、BRICs指向のマーケティング、事業をすべきであると指摘された。同氏は、昨年世界一周をして各国の半導体製造開発研究現場を調査されており、その実見に基づいて「金のかかる最先端(System on Chip)からパイのでかい最前線(メモリ)へ、舵を切ろう」と議論をまとめられた。
千葉商科大学大学院政策科学研究科の高森寛客員教授は、金融工学から発展したリアルオプション[注2]は、従来の未来価値割引に基づく判断の欠点を補うものであり「不確実な環境下での意思決定手法を実際化する」と主張された。
電機産業を中心とした様々な観点から、今日の経営環境に関する意見が出されたことで、傾聴された方々は満足されたかもしれない。しかし、横幹連合への期待をこめて長く付き合ってきた筆者には、横幹技術としてどのような知識の枠組みを作っていくべきかという議論にまで到らなかったことが、大変残念に思えた。
今回のフォーラムは、「いまや厳しさをます国際競争の中で、わが国の産業と技術力、経営資源を点検しながら、これからどんな知識、技術、新しい商品、市場や産業を開拓していくのかについて、産業界と学術界が対話し、知恵を交換する」という趣旨の下に行われた。講演内容は趣旨どおり行われたかもしれないが、ここは単なる経営環境の意見交換の場ではない。状況認識を求めるだけであれば、別の会合に行けば良いのである。実際、講演者との質疑応答の一部で、採られたモデリングと判断は適切だったかという議論も行われていたのだ。今後の講演プログラムでは、議論をいっそう深め、知識を開拓するためにも「産業界と学術界の対話」がなされる機会を、是非とも設けて頂きたい。
今回のテーマを提起された横幹協議会の桑原洋会長は、協議会発足の当初から折に触れて、日本の経営が「個人的な能力に依存し、あまりに科学性に乏しい」というこれまでの状況をなんとか変えてゆきたい、との想いを幾度となく語っておられる。経営の意思決定において左脳的な側面と右脳的な側面があるとすれば、日本は左脳的な努力をあまりに怠っている、という指摘である。
桑原会長が、経営意思決定の科学化は横幹技術として取り組むべき課題である、と提起されてから、すでに4年が経過した。この間にも、電機産業は新たな態勢に向かって大きく舵を取り始めており、この舵取りに関して、横幹連合が何らかの科学的な示唆を示していれば、産業界から大きな信頼を勝ち得たはずである。故に、科学的な示唆もできぬまま、時間だけが経過してしまった事実は、本当に残念である。
しかし、サブプライム問題に端を発した米国経済の失速や、落ち着くことのない世界各地の不安定な金融や経済の状況など、企業経営の意思決定に関わる環境変化は止むことがない。まだまだチャンスは、あるはずである。是非とも横幹連合が、日本の産業と企業経営に光を与える存在となることを期待したい。
[注1] BRICs:ブラジル(Brazil)、ロシア(Russia)、インド(India)、中国(China)の4か国の頭文字をとった造語。アメリカの大手証券会社ゴールドマン・サックス社が、2003年秋に投資家向けにまとめたリポートで初めて使用して以降、広く使われるようになった。上記4か国は、近年では世界平均を上回る高水準の成長を記録しており、現在のペースで経済が発展していけば、世界経済の地図を大きく塗り替えると予測されている。
[注2] リアルオプション(Real Option): 金融工学のリスク回避のためのオプション理論を、実物資産やプロジェクトの評価に適応させた考え方で、不確実性の高い事業環境下の投資における経営の持つ選択権(「待ってから投資する」「撤退する」などの選択権)を、積極的に価値として捉えて、将来の価値創造に賭けての投資戦略(攻めの経営)やリスクの判断に用いること。複雑な数理計算を伴うので経営者の直感的な理解が得づらい、金融理論を実務面に適用するには困難さが生じる、などの課題もあるが、戦後日本の大企業のROE(株主資本を使って当期どれだけ利益を上げたかの株価指標)が、海外と比較して非常に低く推移してきたことへの改善や、例えば「基礎研究」などの将来の成長機会への足掛かりに関する投資の評価などに対して、柔軟な経営判断の根拠を与えるというメリットを持つ。
(注釈文責:編集室)   
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